バール、コーヒー、イタリア人 グローバル化もなんのその

 島村菜津さんの、「バール、コーヒー、イタリア人―グローバル化もなんのその (光文社新書)」のp.131に、こんな一節がある。

ナポリにはね、カフェ・ソスペーゾと言って、誰か、ゆとりのある人がバールに入って、一杯のエスプレッソを飲んで、二人分のエスプレッソ代を払っていく。すると、その後から懐の淋しい人がやってきて、バールの主人に『カフェ・ソスペーゾある?』と訊ねる。主人がこっくり頷けば、その人はただでエスプレッソを飲めるってわけなの」

読んだだけで、ちょっと気持ちがあたたかくなるような話。


また著者は、フィレンツェにあるナポリ人青年の経営するバールでエスプレッソと水の飲む順番について教わったという(p.130〜131)

ナポリのちゃんとしたバールでは、エスプレッソを頼むと、必ず、グラス一杯の水が同時に出てくる。これをカフェの後で飲むのは野暮なんだ。必ず、先に水だ。そうやって口の中をきれいにして、エスプレッソをじっくり味わってもらおうってことなんだ。その後もその余韻をずっと楽しむから、水で洗い流してしまっちゃダメなんだよ」

この本は、このような著者のイタリアでのバール体験で満ち満ちている。
今では日本でも美味しいエスプレッソを飲めるところが増えたけれども、こういう文化の部分は、イタリアに行って実体験するか、行った人に話を聞くか、このような本を読むしか、知る機会がない。しかもそのバール文化は、一口にイタリアといっても地域によって非常にバラエティーに富んでいるそうである。村人が当番制で経営しているCIRCOLO(チルコロ)もあれば、バスのチケットやタバコや切手、トトカルチョまで買える、伝統的コンビニエンスストアの役割を果たしているバールもあるという。


バールの描写を通じて、イタリアの生活の情景が浮かび上がってくる素敵な一冊。
イタリア好きな方、珈琲好きな方は是非御一読を。



というわけで、新書300冊計画の24冊目でした。