防衛破綻 「ガラパゴス化」する自衛隊装備

 あんな国やこんな国との国際関係もあって、軍事や自衛隊が注目されることの多い今日この頃。
軍事は極めて巨大で複雑な分野であることは、普段軍事に殆ど興味を示さない私にもわかっていて、ちょっとやそっと本を読んだところで何がわかるようになるわけでもないとは思っている。
とはいえ、かくもマスコミやネットで話題になると、暇つぶしに読む新書の一冊や二冊が軍事関係の本になったりするくらいのことは、やっぱり起こるのだ。


基本的な疑問というのは、一般市民が一番最初に持つであろう典型的疑問で、
「結局のところ、自衛隊ってどうよ?」
ということである。彼らの災害時の活躍ぶりは凄いと思うので、もちろんこの疑問は防衛に関するものだ。
軍事演習などを見れば、技術の高さに驚嘆できるかもしれないけど、防衛という相手のある行為で、それがどれくらい実証されるかは、別の問題だろうし、軍隊が強いか弱いかは、戦争が起こるまでわからないことも多い。


だから、この疑問の答えをすぐに見つけたいというのは無茶と納得した上で、ほんの少しだけ理解を深めようと、棚から一冊の本を手に取った。




タイトルからして、今の自衛隊に対して批判的な内容であろうと想像がつく。
副題は"「ガラパゴス化」する自衛隊装備" なので、装備がこの本の主なテーマだと思った。
装備=軍隊の強さ ではないだろうが、装備の差は戦力差として具体的にあらわれる。
大事なテーマだろう。


 一番最初に、こう書かれている。

 自衛隊は貧乏である。

そしてその後、日本の防衛予算は高額であるが、正面装備に多額の金を要するため、セーターやジャージなど業務に必要不可欠な被服すら隊員に身銭を切らせて買わせていると説明されている。著者によると、よほどの最貧国でもない限り、セーターは軍から支給されて当たり前なのだそうだ。
同様に、任務に必要なパソコンも支給されていなくて、私物のパソコンを使っていて、そこから交換ファイルで機密情報が流出したと書かれている。
「え〜!?」と思ってしまう。その理由は、金がないからではなく、金の使い方が下手だからだそうだ。


ソ連崩壊後に統合された世界の兵器マーケットで、各国の兵器メーカーが激しい競争をしている中、日本の防衛産業は世界のマーケットから隔絶しており、外国製兵器との競合から守られている。そのような状態から生まれた現状が、著者の言う「ガラパゴス化」だ。とはいえ、著者は日本の防衛産業もどんどん外国企業と競争して兵器を輸出するべきであると言っているのではない。軍事産業を輸出していないことによる外交メリットは大きく、兵器自体の輸出はしないほうが良いのではないかと言っているので、そこは誤解しないようにしたい。


・大体の自衛隊の装備調達コストは諸外国の3〜5倍、兵器によって10倍以上というケースもある
・調達ペースが異常に遅く、調達中に旧式化し、価値が減じた兵器を調達することになる
・予算の統制に対するシビリアン・コントロールが事実上機能していない
自衛隊は軍隊ではないので、平時の国内法に縛られてしまい、非常時に身動きが取れなくなる
・現状では戦時には船舶輸送が途絶するため、シーレーンは存在せず、よってシーレーン防衛は妄想に過ぎない
・装甲付き野戦救急車が存在せず、衛生兵がいないので、交戦時の戦死率が高いことが予想される
・調達プログラムの総額と期間を決定し、オフセット取引をすることの必要性の指摘
・平成19年度から、ようやくまとめ買いが始まった


強引にまとめてしまうと、こういったことが指摘されていて、その後の第2〜4章で陸・海・空の自衛隊の兵器を検証、第5章では日本の防衛産業の行方を考察している。
陸自の小型トラックについての指摘が面白かった。旧73式小型トラックと、新73式小型トラックが存在するのだが、旧73式はジープがベースで、新73式はパジェロがベースである。ジープベースは73年、パジェロベースは96年の導入なのだが、73式と96式とはならず、旧73式と新73式になったのは新73式小型トラックはあくまで旧73式小型トラックの改良型となっているからだと。著者が担当者に、ジープを改良したらパジェロになるのかと尋ねたところ、書類が揃っているので問題ないとの回答が返ってきたと書かれている。あまりに無茶な話・・・。


あと、この国に戦車が600輌もいるのかという指摘もあった。そこまでいらんやろと。


この調子で海自、空自の様々な装備について語っているのだけど、やはり読み応えのあるのは、F-X、次期戦闘機選定のところだった。
これについては、この本が出版された後、F-35Aに決まったようである↓。
防衛省・自衛隊:ここが知りたい:航空自衛隊次期戦闘機(F-X)の整備について


この本では、F-35は対地攻撃を得意とする戦闘機で、制空戦闘機のF-22とは性質が異なると書かれている。
F-22に空戦能力が大きく劣り、既存のF-15,F-16と大同小異だそうだ。
著者は、"「制空戦闘機がダメなら攻撃樹でいい」というのであれば、それは「ヴィトンの限定のハンドバッグが欲しかったけど、ないなら限定品なら財布でもいいわ」というようなものである。"と痛烈に皮肉っている。
なお、この本の著者が推していたのは、欧州製のユーロファイターでした。むやみに米国追従しないという良いメッセージになるという意見。


 第5章は防衛産業における商社の役割と今後の商社のあり方とか、このままだと日本の防衛産業が崩壊していくという話とか、武器輸出は問題を解決するか否かという考察、技術研究本部解体の勧め、情報収集にもっと力を入れよという話。


 全体を通して読んではみたけれども、やはり難しい問題がたくさんあるんだなあ、という曖昧模糊とした感が残る。
著者の主張の中で、官僚制度の弊害と言える予算と装備の問題が自衛隊防衛省に存在すること、自衛隊が非常時に機能するための法整備は十分でないこと、日本の防衛産業の今後について議論が必要なこと、それは納得できる。ただ、じゃあどのような方向が望ましいかというと、やっぱりまだわからない気がする。当たり前と言えば、当たり前だけど。


自衛隊が強いにせよ弱いにせよ、願わくは実戦でその力が試されることのありませんように、と思うのであった。


新書300冊計画の41冊目でした。