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 久しぶりに、新編ユダヤ笑話集を開いた。こういう本をぱっと開いて、最初に目に飛び込んできた話だけ読むのが好き。
今日は、この話がそうだった。

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 三十年代の始めの恐慌のとき。繊維業者のゴルトベルガーは近くの地方都市に新しくできた会社についての情報を得ようと思い、そこに住む友人に照会する。その返事が来る。
 「なんで情報が必要なんだね。最近は商売をする者には二種類しかない。一つは確実に何ももってない者、もう一つは確実なものは何ももってない者。」

 ブラックジョークとまでは行かない、色で言うならもう少しグレーな感じ。気温でいうと肌寒いイメージ。
不景気な時代の空気がひしひしと伝わってくる。わざわざ「2つの場合があるよ」と大げさに構えて言うのだけれども、結局のところは、「調べる必要さえないことさ、最近は商売は上手く行かないね」、とニヒルに笑って見せるような、そんな大人な味わいのジョーク。


いつの時代も人はこのようにして、それぞれの時代をやり過ごしてきたのかもしれないと思った。


そうかと思えば、同じ不景気ネタでも、こんなのもある。

景気が悪い


「景気はどうです、アイワイスさん。」
「いけませんね、とんといけません。」
「いや、そんな事を言って。聞きましたよ、二、三週間前伯母さんの遺産を相続したそうじゃありませんか。」
「そのとおりですがね。」
「それから、先週大伯父さんが亡くなって、相当なものをあなたに遺してくれたそうじゃありませんか。」
「そのとおりですがね。」
「それでもあなたは、景気が悪いなんて言うんですか。」
「そうなんですよ ― 今週は全然だめなんですからね。」

こちらは余り深刻な話ではない。むしろラッキーなアイワイスさん。
とぼけてかわす話術が素晴らしい。物は見方次第でなんとでも言えるということか。


新編ユダヤ笑話集(ザルチア・ラントマン編 三浦靭郎訳 現代教養文庫)は名著なので、再版してほしいなあ。
新編ユダヤ笑話集 (1978年) (現代教養文庫)を見ると、amazonマーケットプレイスで何点か安価で出ているようだけど。