日本辺境論

 これもちょっと前に随分ヒットした新書。
いわゆる日本人論なんだけど、この人の書く文章はちょっと趣があって良い。
合気道道場も開いている著者は、普通の日本人以上に日本人なのだろう。

日本辺境論 (新潮新書)

日本辺境論 (新潮新書)

論をあまり煮詰めず、ところどころ隙間があったりゆるゆるだったりするのも、
わざと一度割ってくっつけた茶碗で茶を嗜むのを風雅とするのと同じかもしれない。


さて、本の中身だけれども、納得できるとこもできないとこもあるけど納得できることが多い。
日本人のアイデンティティは中華に対する辺境の国というアイデンティティーに由来するから、
外部からの情報に対する学習能力は非常に高いが、オリジナルな国家のコンセプトを持つことがまずない。
辺境コンプレックスがあるから、自分が強くなると、自分を中華にしたくなる(大日本帝国)。
何度も聞いたような話だと言いたくなるが、そこは著者が先手を打って、これは新しい話ではないと
前もって言ってある。しかし、これは何度も何度も繰り返されなければならないことなのだと。
確かに新しいロジックではないのだけど、なぜ日本にオバマ大統領みたいな演説のできる政治家がいないかを、
はっきりと説明できているのは、なかなか凄いことだと思う。


それから、日本人(辺境人)ならではの外交上のトリックとか、漫画の絵+セリフは、
漢字+カナの日本語そのものだとか。日本人とその文化の良い部分も悪い部分も、ふんだんに描写されている。


一番おもしろかったのは、学びのところで、弟子と師匠の関係についての洞察。
この辺りは、禅の世界みたいな感じだ。西洋式の教育と、東洋的な師と弟子の関係の違いを、
これほど的確に論理的に描写した本を、今まで読んだことがなかった。


はっきり言って好き嫌いが分かれる本ではあると思うが、一読の価値はあると思う。
ふむふむ、日本人って、珍しくて面白い人達なんだなあ、と思えるようになる。


この本が新書300冊計画の8冊目。