はい、そうですね。私も葬式はいらないと思います。
友達の親の葬式とか小学生のときに学校に無理矢理行かされたり、
曾祖母とか祖母とか祖父の葬式に出席もしたけれど、ひたすら嘘っぽいとしか感じませんでしたから。
私が死んでも全く葬式も墓もいりません。以上。
と、そんな話で終わらしていては宗教学者になって本を書いたりできないわけで、
島田裕巳さんのえらいところは、葬式は要らないという単純なメッセージを裏付けるために、
いろんな調査や統計や歴史や民俗学を引っ張ってきて一冊の本にするところです。
- 作者: 島田裕巳
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/01/28
- メディア: 新書
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第1章 葬式は贅沢である
第2章 急速に変わりつつある葬式
第3章 日本人の葬式はなぜ贅沢になったのか
第4章 世間体が葬式を贅沢にする
第5章 なぜ死後に戒名を授かるのか
第6章 見栄と名誉
第7章 檀家という贅沢
第8章 日本人の葬式はどこへ向かおうとしているのか
第9章 葬式をしないための方法
第10章 葬式の先にある理想的な死のあり方
内容も、全く各章のタイトルに忠実。律儀な人なのだろう。
著者は、葬式が従来の近所や職場を巻き込んだものから、家族葬など身内だけの簡単なものに移行してきたと書いている。
確かに最近は近所で人が死んでお知らせの回覧板がまわってきても、葬式に来るのも香典も遠慮してくださいねと書いてある。
私としては、「いい世の中になったな〜」と思うのだ。大嫌いだもん、お葬式。親友のでも親戚のでも呼ばれたくない。
誤解のないように書いておくと、私は人の臨終を見るのは嫌いじゃない。死を忌避してるわけじゃないのである。
本の内容に戻る。2007年の日本人の葬式費用の平均は271万円で、世界一だそうな。
死ぬのにこんなにお金がかかるのはおかしい、という思いは多くの人の心の中にあると思う。
90年代前半の調査だけど、世界一位の経済大国アメリカでも44万4千円、儒教色の強い韓国でも37万3千円だそうで、
日本が50万や60万くらいなら物価の高い国ということでわからなくもないが、271万円は何かが激しく間違っているに違いない。
この本は、まさにそうした不条理と知的に戦うためのツールであると思えてならない。
たまに葬式が法的な義務であると誤解している人がいるのを考慮して、最初のほうで葬式が法的な義務でない旨を、
明確に記述してあるのも親切で好感が持てる。「墓地、埋葬等に関する法律」で火葬と埋葬について定められているだけなのだ。
葬式に付いての法律による規定は一切無い。
葬式無用と考えた人は昔からいたようで、本書では中江兆民、白洲次郎、白洲正子の名があげられている。
20年ほど前まで散骨が違法と思われていたため、石原慎太郎が石原裕次郎の骨を散骨できなかったとも書かれている。
やっぱり、いらないと思ってた人は結構いたんだなあ。
それから、「直葬」に代表される葬式の簡略化や、宇宙葬、創価学会の友人葬等、新しい葬式の形が紹介されている。
そして、日本の葬式の歴史。何事にも歴史的根拠を知りたがる人には必要であろう。
あと、葬式仏教の最たるものとして悪名高い戒名問題。
「戒なき坊さんから戒名を受けるという根本矛盾だ」とは長野県松本市の神宮寺の住職、
高橋卓志さんの言葉。
お寺を批判するばかりではない。第7章は、檀家であるということの良い意味での贅沢さについて書かれている。
昔々は檀家になるなんて、庶民ができることではなかったのだ。
修行するお坊さんをサポートして、それと引き換えに自分の先祖を供養してもらうというのは、
宗教的にはなかなか贅沢である、という考え方。
そんな贅沢いらないからやめるか、贅沢を楽しんで続けるか、それは人それぞれだけど、贅沢なのは間違いないと思う。
後は、これから日本の葬式がどこにいくかという話と、実際的に葬式を可能な限り安く済ませるにはどうするべきかというお話。
著者は、自然と葬式は簡略化していったり、なくなっていく方向にあるだろうという意見。
いやー、いろんなことが時代とともに変わっていくんだなーと思うけれども、
実は大阪だと一心寺とか、納骨はラディカルと言っていいくらい安い(笑)
小(小骨・分骨用)1万円又は、1.5万円又は、2万円 大(胴骨・全骨)1.5万円又は、2万円又は、3万円
立派なのは、金額にきちんと2万円、3万円という上限を設けてあること。
上限がないと「故人のためだからたくさん払わなくては」という強迫観念に囚われて無理してしまう人も少なくないだろうし。
安くても供養はきちんと、という迷信信心深い人にお勧め?法然上人二十五霊跡第七番札所。
でも宗派に関係なく納骨できるという、度量の広さ。人数の多さをさばくことに慣れてて、
納骨の手続きなんかも、滞りなく非常にスムーズ&システマティック。
そもそも法然上人の教え、庶民のためのものだったしね。平成の話してたのになぜか最後で鎌倉仏教に(笑)
念のために書いておきますが、葬式したい人を止めたり批判する気は全くないです。
でも自分が葬式したくないのに、家族や親戚が葬式したくて困っている人がいたら、この本を読ませるのはお勧めかも。
そんなこんなで、これが9冊目の新書。