『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する

 まず、カラマーゾフの兄弟を、読んだことがない。
それなのに、こんな新書を読んだりする。ドストエフスキーの他の作品もちゃんと読んだ本はないが、
あまりにも有名なこの小説は未完の小説であり、続編と呼ばれている「第二の小説」があったものの
ドストエフスキーの死によって、手付かずのまま終わったということらしい。

『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する (光文社新書)

『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する (光文社新書)

この本は、著者である亀山郁夫氏が、自らに9つの条件を課し、その続編を空想するという試みである。
9つある条件をさらに簡略にまとめてしまうと、


・それまでのドストエフスキーのスタイルや残された文献から逸脱しないこと
・しかし、根拠あらば新しいアイデアを示すこと
・第一の小説の主な登場人物たちの、その後13年間をアリョーシャ中心に検証すること
・最終的に第二の小説のおおまかなプロット(筋立て)を提示すること
・第二の小説が検閲の監視のもとで書かれることになるという事情に留意すること


といった具合である。さまざまな要素を推敲して出てくる結果は、一言で言うと皇帝暗殺未遂事件。
もちろんドストエフスキーなので単純な話にはできない。登場人物それぞれの人生が複雑に折重なっている。
第二章 皇帝を殺すのは誰か、第三章 託される自伝層、第四章 「第二の小説における性と信仰」
に渡って、著者の入念な考察がなされている。
そして、仮にドストエフスキーが死なずに第二の小説を書き始めていたとしても、
途中で書くのをやめた可能性についても言及されている。
というのも、ドストエフスキーが死んで二ヵ月後、皇帝アレクサンドル2世は本当に暗殺されてしまったのだから。


ある意味、二重の意味で幻の小説だったのかもしれないと思う。
ドストエフスキー読んだことない私が読んでも面白かったので、ドストエフスキー好きにはお勧め。
それにしても、19世紀ロシアって、テロルの嵐だったんだなあと再認識。


これが、新書300冊読書計画の6冊目。