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定食学入門

 とにかく定食が好き、という著者によって書かれたこの本。


定食学入門 (ちくま新書)
今 柊二
筑摩書房
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 定食学なる言葉を聞くのは初めて。しかも筑摩書房から新書にまでなっているとは。
表紙には次のように書かれている。

さまざまな定食はどのように生まれたのか。調味料はどうか。ご当地定食には、どんなものがあるか。調べはじめると、これがすこぶる奥深い。「定食学徒」の私は、定食の楽しさと魅力を、同僚友人知人家族に、激しく語って、まわりを定食ワールドに引きずり込んできた。

 もちろん、私も定食は何度も食べたことがある。これまで何食食べたか数えられないくらい食べている。しかし、まわりを定食ワールドに引きずりこむという著者の言葉からは、普通にお腹すいたときに目の前に定食屋があったから定食食べてみたという私達一般人とは桁違いのパワーと情熱を感じざるを得ないのである。


 第一章 素晴らしい定食屋にいこう! は定食屋入門と言った趣。
定食屋初心者のために、良い定食屋の見分け方が書かれている。また、良い定食屋の例が
何軒もの実店舗の名を挙げ、詳細に説明されている。


第二章 揺れる男心が決断する「おかず」では、白飯、汁、漬物、小鉢、焼魚、煮魚、刺身、寿司、シラス、魚卵、鯨カツ、ウナギ、天ぷら、煮物、野菜炒め、焼肉、ショウガ焼き等々、定食の諸要素が網羅されている。その一つ一つの項目において、著者の思い出や思い入れが熱く語られている。本当にこの人は、どれだけ定食が好きなんだろう!と感心してしまう。


第三章 独身男のライフライン発展史 では、江戸時代から現代に至るまでの本邦における定食屋の歴史が語られている。この本の中でもっとも学問的な章と呼んでもいいと思う。学校で習う歴史は戦争とか政治とか法律とか建築物とかが中心だったけれども、民衆の歴史を知るのであれば、食事の歴史こそ、学ばねばならないものではないだろうかとも思う。


海軍とカレーの関係、早稲田で誕生したカツ丼、恐るべき明治の安飯屋、阪急百貨店のソースライス、戦時統制、定食暗黒時代、闇市の残飯シチュー、広島の小麦粉文化など、興味深い歴史が盛り沢山。


魚肉ソーセージと原爆実験の意外な関係についても、記載がある。p.142より引用してみる。

 一九五二年、かまぼこなど魚肉のすり身加工のさかんな愛媛県八幡浜市の西南によって、魚肉ソーセージが発売され人気を博し、やがて他社でも発売されるようになった。おりしも、アメリカによるビキニ環礁での原爆実験によって遠洋マグロ漁船「第五福竜丸」が被曝。その風評により、マグロの価格が下落していた。その価格下落が、じつは原材料コストのスリム化になった。それが、安くてうまい魚肉ソーセージの爆発的なヒットにつながった。一九五三年に二二五トンだった魚肉ソーセージの生産量は、一九六〇年には九万二〇二一トン、そして一九七〇年には、史上最高の一七万二一九三トンまで達している(社団法人日本缶詰協会魚肉ソーセージ部会が管理運営するホームページ)。

 つまり、核実験によりマグロに放射能汚染の懸念が生まれ、寿司や刺身としては余り売れなくなってしまうのだが、安価な魚肉ソーセージとなって、多くの人々の口に入ることとなったのだ。内部被曝の問題はなかったのだろうか。なんというか、今のご時世では色々と考えさせられてしまう話である…


第四章 全国の「心の基地」を訪ねて は地方別の定食事情。よくもここまで足で稼いだものだなあと尊敬の念を禁じ得ない。各地方の名店が挙げられているので、ガイド代わりにこの本を使うのもありだと思う。食べに行く前に閉店したりしていないかどうか、食べログ等でチェックすることも必要かもしれない。


第五章 定食学徒誕生の記 は著者の自伝みたいな感じ。いかにして定食を食べるようになったか、定食の何が素晴らしいのか、そういうことが書かれている。


情報量多く楽しめる一冊なので、もしこのレビューを読んで興味を持たれた方がいたら、是非とも御一読をお勧めする。


というわけで、新書300冊計画の26冊目でした。